硬いガムで奥歯が折れた<破折>(ラブラドール 8才)歯科症例102

 

 

右の奥歯が折れていると思う。

いつ折れたか分からないが、痛みはなさそう。

硬いガムを与えていたのでそれが原因かも。

とのことで来院されました。

 

右側上顎第4前臼歯の平板破折があり、露髄も起こっていました。

歯石はほとんどありませんでしたが、患部の歯肉が腫れ、出血も確認されました。

 

飼い主さまは歯を残すことを希望されましたので、

抜髄根管治療に向け術前検査をすることになりました。

 

 

術前検査で、大きな異常は認められませんでした。

 

 

右側上顎第4前臼歯

 

今回、抜髄を行う第4前臼歯です。

平板破折が起こり、歯肉が腫れています。

平板破折のため、出血点は折れた歯面で隠され、この写真からは確認することができません。

 

プローブ検査

 

普段から歯みがきをされているため、ほとんどの歯のポケットは1~3mmと浅く、歯肉の腫れや炎症もありませんでした。

一部、犬歯を中心に5mmのポケットがありました。

 

レントゲン検査

 

右側第4前臼歯の歯根部の明らかな異常はありませんでした。

 

歯神経ブロック

 

スケーリング

まずスケーリングで全ての歯の歯垢・歯石の除去を行います。

不衛生な物質の除去を行い、抜髄根管治療を行う歯への汚染を防ぎます。

 

 

抜髄根管治療法

 

破折した歯面を剥がしたところです。

出血点が2ヵ所で確認でき、露髄していることが分かります。

 

ダイヤモンドバーを使用し、歯髄を開拡していきます。

 

ファイル(不良組織を除去するための細い棒状のやすり)を使用し、根管長(穴の深さ)を測定します。

 

この時、ファイルが根尖まで達しているかレントゲン検査で確認します。

レントゲンにて、根管の長さと太さを確認します。

 

根管の太さに合わせたファイルを使用し、不良組織の除去と根管の拡大を行います。

最初は細いファイルから開始し、徐々に太くしていき根管の拡大と洗浄を繰り返します。

 

第4前臼歯は3根歯なのでこれを3根全てに行い、感染の可能性のある組織を全て除去します。

 

この時、根管に削りカスなどが残らないように、消毒と洗浄を繰り返します。

洗浄後、根管の止血・乾燥を行います。

 

次に根管充填を行います。

 

根管の充填が適切に出来ているか、レントゲンにて確認します。

 

 

歯冠部の保存・修復

エッチング(歯面をざらざらにさせてレジンをつけやすくする)

 

ボンディング(歯とレジンを接着させる、のりの役割)

 

光重合(特殊な光を当て、塗布した材料を固めます)

 

レジンの充填・形の成形

 

レントゲン検査を行い、適切に充填できているか確認を行いました。

 

ルートプレーニング

 

ポリッシング

 

最後に、口腔内をきれいに洗い流し終了しました。

 

 

 

 

 

破折は人であれば常時激痛を伴う重度の状態ですが、

わんちゃんの場合は本能的に痛みを隠すため、

日々の生活の様子から、症状の深刻さを察知できないことが多いです。

 

この飼い主さまは、普段からホームデンタルケアをされているため、

発見が早く、また判断も早く、早期に抜髄根管治療を行うことが出来ました。

ですので、このわんちゃんの痛みによるストレスも最小限に抑えることが出来ました。

 

3カ月後、レントゲン検査にて歯根部の感染が起こっていないか確認を行いました。

レントゲンでの感染所見はなく、歯肉の腫れも引いていました。

 

今後も定期的なレントゲン検査・デンタルチェックを行いながら、

良い状態を維持しましょう。

 

2018年10月15日